日本集中治療医学会雑誌
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委員会報告
日本蘇生協議会蘇生ガイドライン ~小児の蘇生:心拍再開後集中治療
日本集中治療医学会小児集中治療委員会JRC蘇生ガイドライン2015ワーキンググループ
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2017 年 24 巻 2 号 p. 184-198

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抄録

2015年10月,日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council, JRC)により「JRC蘇生ガイドライン2015」が公表された。日本集中治療医学会はJRC加盟学会として,この改訂版作成の任に当たった。小児の蘇生(pediatric life support, PLS)部門は,日本集中治療医学会(小児集中治療委員会),日本小児科学会,日本小児救急医学会からのメンバーによる合同委員会を結成し,分担項目を設定した。日本集中治療医学会小児集中治療委員会は,委員および委員会外部学会員よりなるJRC蘇生ガイドライン2015ワーキンググループを立ち上げ,PLS全8項目中,1)特殊な状況(の蘇生),2)ショック,3)ECPR(extracorporeal cardiopulmonary resuscitation),4)心拍再開後の集中治療,5)予後判定と原因検索を担当した。これは,ガイドライン記載PLS全内容量の42%を占める。本誌ではこのうち,4)心拍再開後の集中治療,に関する全文を再掲載した。
本学会が対応した領域における改訂の要点を下記に示した。
【敗血症性ショックに対する輸液蘇生】等張晶質液のボーラス輸液の制限は,特殊な状況下においては,小児敗血症性ショックの転帰を改善するかもしれない。発熱性疾患の小児において,ことに明らかな敗血症性ショックの兆候がない場合は,患者評価を繰り返し行いつつ慎重な輸液療法が施行されるべきである。
【ECPR(extracorporeal CPR)】蘇生中あるいは蘇生後に,専門家,医療資源,医療体制において体外式膜型肺(extracorporeal membrane oxygenation, ECMO) 管理を適正化できる環境下では,院内心停止に陥った小児の心疾患患者に対してECMO の使用が考慮される。
【心拍再開後の集中治療】院外心停止後に意識がない小児に対して,発熱を回避し,一定期間の中等度の低体温療法,あるいは正常体温に厳格に維持することで,転帰は改善するとした報告があった。自己心拍再開(return of spontaneous circulation, ROSC)後にPaO2を測定し,患者の状況に適した値を目標値とする。特定の患者データがない場合は,ROSC後は正常酸素血症を目標とする。ROSC後にPaCO2を測定し,患者の状況に適した値を目標値とする。特定のPaCO2の目標値を推奨する根拠に乏しい。少なくとも年齢相当の5パーセンタイル値を超える収縮期血圧値を維持するように,輸液や血管作動薬/血管収縮薬を使用する。
【予後予測因子】小児の心停止後7日以内に行う脳波検査が,予後予測を補完しうる。小児の心停止後の予後予測のために脳波を単独で用いるには根拠が不十分である。院内心停止の小児については,患者年齢が1歳未満,初期波形がショック適応といった良好な転帰の予測因子を,予後判断の補助として使用する。院外心停止の小児については,患者年齢が1歳以上,初期波形VF/無脈性VTが良好な転帰の予測因子であった。心肺蘇生時間は,それ自体は有用ではない。重要なこととして,いまだ証明されていない予後予測因子に固執することなく,蘇生中の予後予測と方針決定の指針となる複数の因子を総合して判断すべきである。心停止後の小児の転帰を予測しようとする際には複数の変数を使用する。心拍再開後の集中治療が予後予測因子にどのような影響を与えるかは不確かである。
 小児蘇生領域のエビデンスについては,大規模な疫学データ解析や,海外におけるランダム化比較試験などを中心に徐々に知見の集積が進んでいるが,いまだ十分とはいえない。当学会会員を中心として,今後の知見集積への貢献が強く期待される。

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© 2017 日本集中治療医学会
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