疾患情報

遺伝性血管性浮腫(HAE)

遺伝性血管性浮腫(HAE)のガイドライン2010

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  1. 1.本ガイドラインの目的
  2. 2.遺伝性血管性浮腫の診断と治療
  3. 3.診断のための参考事項
  4. 4.付記
  5. 5.参考文献

本ガイドラインの目的

 本ガイドラインは、広く一般の臨床医を対象に、遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema: HAE)の的確な診断と治療に役立てていただくために補体研究会が作成しました。
 HAEは、補体成分C1インヒビター(C1INH)の欠損によるもので、疾患を知っていれば診断は比較的容易です。診断がつけば有効な治療を受けることができます。診断がつかず、苦しまれている患者さんが、迅速に診断され、的確に治療されることを願っております。なお、このガイドラインは医学の進歩に則して適宜更新していく予定です。

遺伝性血管性浮腫の診断と治療

1.疫学 1万人に1人~15万人に1人(5万人に1人との報告が多い)
2.病型
  1. (1) 1型(HAE全体の85%)常染色体優性遺伝
    C1インヒビタータンパク量低値、C1インヒビター活性低値
  2. (2) 2型(HAE全体の15%)常染色体優性遺伝
    C1インヒビタータンパク量正常または上昇、C1インヒビター活性低値
  3. (3) 3型(稀)エストロゲン依存性、ほとんど女性に発症、病態の詳細は不明であるが、一部には凝固第XII因子の変異を認める。
    C1インヒビタータンパク量正常、C1インヒビター活性正常

家族歴のない孤発例は、HAE全体の約25%に認められている。
その他に後天性血管性浮腫(Acquired angioedema: AAE)、薬剤性血管性浮腫などがある。

3.診断
  1. (a) 遺伝性血管性浮腫を疑う症候
    ・皮下浮腫、粘膜下浮腫(痒みを伴わない、あらゆる部位)
    ・消化器症状(腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)
    ・喉頭浮腫(3歳以下では稀、喉頭浮腫を生じたにもかかわらず適切に治療をされない場合の致死率は30%)
    ・発作は精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、生理、薬物などで誘発される。
    ・発作は通常24時間でピークとなり72時間でおさまるが、それ以上続くこともある。
    ・家族歴がある。
    ・あらゆる年齢で発症する。
  2. (b) スクリーニング
    ・C1インヒビター活性(保険適応)で低値となる。
    ・発作時に、C4はHAEの98%で低値となるため、C4測定は有効な目安になる。
  3. (c) さらに詳しく病型を検討する場合
    ・C1インヒビター定量(保険適応外)を行う。
       低値であれば  1型HAE
       正常値ならば  2型HAE
  4. (d) 家族歴がない場合、後天性血管性浮腫との鑑別が必要となる
    ・C1q(保険適応外)が低値であれば後天性とされているが、遺伝性の場合でも低値を示す場合がある。
    確定診断のためには、遺伝子解析が必要となる。
  5. (e) 3型HAEを疑う場合は、第XII因子の変異の可能性がある。
4.発作時の治療
  1. 1.皮下浮腫(顔、頚部以外)
    経過観察
    トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)、C1インヒビター補充療法(50kg以下 500単位、50kg以上 1000~1500単位 静注)
  2. 2.皮下浮腫(顔、頚部)
    トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)
    C1インヒビター補充療法(50kg以下 500単位、50kg以上 1000~1500単位 静注)
  3. 3.腹部症状
    トラネキサム酸(15mg/kg 4時間毎)、C1インヒビター補充療法(50kg以下 500単位、50kg以上 1000~1500単位 静注)
  4. 4.喉頭浮腫
    C1インヒビター補充療法(50kg以下 500単位、50kg以上 1000~1500単位 静注)
    ICUにおける気管内挿管、気管切開
発作時の治療 皮下浮腫
顔、頚部以外
皮下浮腫
顔、頚部
腹部症状 喉頭浮腫
経過観察
トラネキサム酸
C1インヒビター +/-
ICUでの処置
5.短期予防
  1. 1.歯科治療(侵襲性が弱い場合)など小ストレス時
    C1インヒビター補充療法の準備の上ならば予防は必要なし
  2. 2.歯科治療(侵襲性が強い場合)外科手術など大ストレス時
    術前1時間前のC1インヒビター補充療法(50kg以下 500単位、50kg以上 1000~1500単位 静注)
    更に2度目のC1インヒビター補充療法の準備をしておく。
6.長期予防

1ヶ月に1回以上、1ヶ月に5日以上の発作期間、喉頭浮腫の既往歴の場合検討する。

  1. 1.トラネキサム酸
      30-50mg/kg/日を1日2-3回に分けて服用
      副作用 筋肉痛、筋力低下、疲労感、血圧低下
  2. 2.ダナゾール
      2.5mg/kg/日(最大200mg/日)を1ヶ月、
      もし無効ならば、300mg/日を1ヶ月、
      更に無効ならば400mg/日を1ヶ月、
      200mg/日で有効ならば、その後100mg/日を1ヶ月、
      50mg/日または100mg/隔日へ減量する。
  3. 禁忌:小児、妊婦、授乳中、癌患者
    副作用:男性化、肝障害、高血圧、脂質異常、多血症、出血性膀胱炎
    経過観察:6ヶ月毎の血液検査が必要、
    また200mg/日以上の場合 6ヶ月毎の
    腹部エコー、200mg/日以下の場合 1年毎の腹部エコーが必要(肝腫瘍出現の可能性があるため)

診断のための参考事項

  • 遺伝性血管性浮腫を軽度疑う場合
    血清C4測定を行う。
     低値➔C1インヒビター活性測定を行う。
     正常➔遺伝性血管性浮腫はほぼ否定できる。
  • 遺伝性血管性浮腫を強く疑う場合
    C1インヒビター活性測定を行う
     低値➔C1インヒビター欠乏による血管性浮腫と診断できる。
       ➔以下のように病型の鑑別を行う
     家族歴がある➔遺伝性血管性浮腫と診断できる。
       ➔C1インヒビター定量を行う
       ➔低値の場合は1型、正常または上昇の場合は2型と診断できる。
     家族歴がない➔血清C1q測定を行い低値ならば後天性血管性浮腫の可能性があるとされるが例外も多い。
       ➔確定診断のためには遺伝子解析が望ましい。
     正常➔3型や薬剤性血管性浮腫を疑う
       ➔薬剤服用歴(とくに降圧剤、エストロゲン製剤)の確認。なお3型は日本人での報告はないが、欧米の報告では家族性があり、ほとんど女性に発症する。

付記

  1. 1) 本ガイドラインにご意見がある方はご連絡いただければ幸いです。

     補体研究会運営委員 堀内孝彦
     E-mail : xxxxxx@intmed1.med.kyushu-u.ac.jp(xxxxxxにhoriuchiと入れてください。)
  2. 2) C1インヒビターの活性測定、タンパク定量、遺伝子解析についてご相談がある方は、 補体研究会のホームページをご覧ください。
  3. 3) C1インヒビター製剤は、製剤名 ベリナートP(CSLベーリング社)。

    CSLベーリング社のホームページ
    URL : http://www.cslbehring.co.jp

    あるいは遺伝性血管性浮腫専用のホームページ「all about HAE」から情報を得ることができます。
    URL : http://www.allabouthae-jp.com

    トラネキサム酸は、薬剤名 トランサミン(第一三共)など。
    ダナゾールは、薬剤名 ボンゾール(田辺三菱)など。

参考文献

  1. 1) Bowen T et al. Canadian 2003 International Consensus Algorithm for the Diagnosis, Therapy, and Management of Hereditary Angioedema. J Allergy Clin Immunol 114: 629-637, 2004
  2. 2) Bowen T et al. Hereditary angioedema: a current state-of-the-art review, VII: Canadian Hungarian 2007 International Consensus Algorithm for the Diagnosis, Therapy, and Management of Hereditary Angioedema. Ann Allergy Asthma Immunol 100 (Suppl 2): S30-S40, 2008
  3. 3) Cichon S et al. Increased activity of coagulation factor XII (Hageman Factor) causes hereditary angioedema type III. Am J Hum Genet79: 1098-1104, 2006
  4. 4) Gompels MM, et al. C1 inhibitor deficiency: consensus document. Clin Exp Immunol 139: 379-394, 2005
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